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株分け1
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 この株分けは、畑仕事が終わって日が暮れた頃から始まります。福本さんのお宅でも、奥さんの直美さん、お母さんの久子さんが総出でこの作業に当たります。12月になると、工場の中も底冷えがする寒さです。
 左写真は「苗たたき機」で土を落とした苗です。苗は大きな塊になっており、植え付けをする10本ぐらいの藺草束に苗を分けます。苗は根が複雑に絡んでいるので、簡単に分ける事ができません。うまく根を千切るように苗を分けて行きます。


株分け2
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 左写真はまだ分ける前の苗です。これでも藺草の量が多すぎます。分けた時に、うまく藺草の根が絡んだままだとラッキーなのですが、大半が藺草がばらばらになってしまいます。そういう場合は、右写真のように一本の藺草でからげて束ねます。根には新芽が付いており、この新芽を切らないようにしなければなりません。また、すでにこの苗の段階で枯れている藺草もあり、それを選る必要があります。
 自分で計算した所、標準的な藺田に必要な植え付け苗の数は約5万本です。藺田が3つあれば15万本の苗が必要になります。この株分けはまったくの手作業で行わなければなりません。作業自体は難しくもないのですが、まさに気が遠くなるような作業です。


株分け3
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 夜も更けてきました。しかし目の前にドンと積まれた未処理の苗は、一向に減りません。少しずつ減ってはいるのでしょうが、減った気がしません。同じ作業を、それも延々と繰り返すのは、正直私の一番苦手とする分野です。今日は朝早く岐阜から6時間列車を乗り継いで来たせいなのか、睡魔が襲って来ました。皆さんに比べて作業効率が悪すぎます。
 福本さんも「俺は外仕事の方がいいな」と言っていましたが、こういう作業はやはり女性向きなのかも知れません。奥さんの直美さんはさすがです。手の動きが止まる事がありません。
 淡々と時間が過ぎて行く中、福本さんご夫婦と色々な話をすることができました。私からは藺草農家の事について、福本さんからは畳店の仕事やお客さんの事、岐阜の事を質問されました。福本さんご夫婦は同い年だそうです。どちらも私より1才お若いのですが、同じ世代なので話も弾みます。ちょうど大阪に住んでいる息子さんが帰って来ているそうで、明日からの植え付けを一緒に手伝うそうです。
 たまたま息子さんが若くして温泉が好きだという話になりました。ここ八代は温泉が多く普通の銭湯でも温泉と聞いて、ひと風呂浴びたくなってきました。「石河さん、まだ明日も明後日もありますから、温泉入ってきたらどうですか」と言われ、同行している熊本の写真家豊永さんと、近くの鶴の湯に行く事になりました。下永さん宅にいる鏡君に電話をすると、やはり家族全員で株分けをしているそうでした。取りあえず、下永さん宅に行く事にします。


株分け4
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 下永さんの工場に入ると、静まり返った空気の中、下永さんご夫婦・ご両親と鏡君がやはり淡々と株分け作業を行っていました。「カリスマ」下永さんも無言で作業に没頭しておられます。同じ作業なのに、人によって指先の動きが微妙に異なります。長年培ってきた、その人のやり方というものがあるのです。
 一年を通して、藺草生産農家には様々な作業があります。夏のあの激動の刈り取りがあるかと思えば、冬の寒い夜にはいつ終わるとも知れない株分けがあります。産地に来る前は、藺草生産農家というのは畳表を製織するという印象が強かったのですが、実際そうではありませんでした。この「株分け」に代表されるように、地道で根気のいる作業の方が多いのです。私では藺草生産農家は務まらない、これだけは間違いありません。


株分け5
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 余計なお節介ですが、「ここは少し工場の空気を和らげてみよう」と思って鏡君に話しかけました。鏡君も今朝早く山形から飛行機で来ています。きっとしんどいのではないかなと思ったからです。すると意外な答えが返ってきました。「石河さん、これ結構楽しいですね!」「何?」一瞬耳を疑いましたが、本当に楽しそうにやっているのです。作業を見ると、例の藺草で結ぶ動きも慣れた手つきです。体が大きい鏡君は、外作業が得意なのかとずっと思っていたのですが、結構細かな部分を持ち合わせているのでした。そういえばこの工場に鏡君が居ても、何も違和感がありません。
 下永さん(兄貴)は、私より一つ年上ですが同年代です。作業をしながら時々話しかけてくれます。でも兄貴は強烈な熊本弁なので、何を話しているのかさっぱり分からない(兄貴すみません)のです。それも私に対してなのか、他の人に話しかけているのかどうかも分かりません。そこで集中して話を聞きます。そして私が受け応えをして兄貴がうなずいてくれると、「ああ通じたぞ」とほっとしました。
 下永さんは藺草専業で、しかもすばらしい畳表を織られます。間違いなく、これからの八代産地を引っ張って行かれる方です。


株分け6
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 分けた株は、ちょうど大きな笊(ざる)一杯ずつ縛ります。この後、苗を適度な長さに切って藺田に運ぶのです。後で聞いた話ですが、毎年植え付けの準備期(この株分け作業)は、農家は猫の手も借りたいくらい忙しいのです。そのため外注で株分けを人に依頼する場合もあります。この笊一杯の量で株分け代800円〜1000円位だそうです。高いのか安いのか、賃金からだと1時間位でできなければダメですね。でも私なら半日はかかりそうです。
 そして苗が傷まないように、根を水に浸けておきます。苗の用意、藺田の準備(水を引いて土を柔らかくしておく)、そして人足の確保ができて、初めて植え付けを行う事ができるのです。


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